呼吸器外科

各種疾患に対する治療

肺がん

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自然気胸

多くは若年男性の肺の先端部にブラと呼ばれる背嚢胞が形成され、破られることで発症する病態です。原則再発時に胸腔鏡下ブラ切除を行っています。ブラがはっきりしており積極的に手術を希望される方には初回発症でも手術を行っています。

続発性気胸

COPD(慢性閉塞性肺疾患、いわゆる肺気腫)、間質性肺炎、塵肺などに合併して生じる続発性気胸に対しては、胸腔ドレナージで改善しない場合に手術を行っています。原則胸腔鏡下ブラ切除を行いますが、開胸手術に移行して肺縫縮術を行ったり、癒着療法(当科ではフィブリン糊を使用し、厳密な意味では癒着療法ではありません)を併用するなど、個々の患者さんの病態に応じた手術を行っています。 なお全身麻酔が困難と考えられる患者さんには、胸腔ドレーンからフィブリン糊(血液製剤)を入れたり、各種癒着療法剤を注入したりします。それでも改善しない場合は、局所麻酔下に胸腔鏡手術を行うことがあります。また気管支鏡下にシリコン製気管支充填材Watanabe Spigotを充填する「気管支充填術」を行うこともあります。

膿胸

急性膿胸

肺炎、胸膜炎に引き続いて起こる病態です。胸腔(肺と胸壁の間)に膿性液の貯留をきたす急性の炎症性疾患です。胸腔ドレーン留置による排膿を行いますが、 膿胸腔に隔壁が形成され多房化するため十分な排膿が得られないことがあります。このような場合に胸腔鏡下に膿胸腔の掻爬ドレナージ手術を行うことが有効で す。一方、これまで手術対象と考えられていた患者さんに胸腔ドレーンからウロキナーゼを投与すると膿胸腔の隔壁が溶け、十分なドレナージ効果が得られ、手 術を回避できたという報告も増えています(ただし、ウロキナーゼの胸腔内投与は認められた治療ではありません)。現在当科では、個々の患者さんの病態を慎 重に見極めて、胸腔鏡手術を行うか、ウロキナーゼ投与を行うか判断しています。

慢性膿胸

もっとも治療に難渋する疾患です。標準治療はなく、一人一人の病態に合わせたオーダーメイドの治療しかありません。当科では過去16年間に82人の患者さ んに計208回の手術を行っています。おわかりになったと思いますが、慢性膿胸は1回の手術で治療が終わることはほとんどなく、数回の手術が必要なことが ほとんどです。入院期間も数ヶ月から10年程度と様々です。患者さんと家族の方、そしてわれわれ医療スタッフが何回も相談して治療方法を決定していきたい と思います。

炎症性肺疾患

肺MAC症・肺非結核性抗酸菌症

非結核性抗酸菌は結核以外の抗酸菌の総称です。人から人への感染はありません。中高年の女性に多い肺感染症で、感染ルートはまだ不明です。病状の進行は様々ですが、ゆっくり進行し、じょじょに肺を破壊し、呼吸不全死に到ります。その経過は20年以上の場合もあります。リファンピシン、エタンブトール、クラリスロマイシンなど抗菌薬の併用内服治療が原則ですが、治療に抵抗性です。限局した空洞性病変・結節性病変の症例には外科治療が有用と報告されており、当科でも手術を行っています。 限局した空洞性・結節性病変を有する症例で、手術で完全切除できれば病変がなくなり、内服治療を終了できる可能性が高い症例がもっとも良い手術適応です。最近では病変が一側肺全体や両肺に広がっていても、限局した大きな空洞や結節から供給されて生じたと推察される症例については手術適応と考えています。これは「限局した大きな空洞や結節」を切除することで菌の供給源を絶ち、かつ内服治療を継続することで残存病変に対処しようという考えです。 世界的にも標準的な外科治療が定まっていない領域なので、当院の呼吸器内科医師と相談しながら、手術適応・術式を決定しています。

肺アスペルギルス症(アスペルギローマ)

手術危険度がもっとも高い疾患の一つです。多くの患者さんが結核の既往を有し、結核後の肺の空洞に真菌(アスペルギルス、いわゆるカビ)が感染した病態です。空洞とその内部に球状の真菌塊(fungus ball)を認め、アスペルギローマとも呼ばれています。肺の上葉から始まり、進行すると胸壁や下葉S6に浸潤していきます。胸壁から血管が入ってくるため血痰で発症することが多く、また手術時の出血量が多くなる原因にもなっています。 手術はできるだけ小さいうちに小さく切除することが理想です。現実には肺葉切除を行うことが多いですが、完全切除を行い残存肺に真菌を残さないことが肝要です。切除後も残存肺が伸展しないため胸腔内に大きな遺残腔が残り、様々な合併症の温床になります(space problemと呼ばれています)。完全切除された症例の予後は良好と記載されていますが、術後10年程度経過観察していくと、様々な晩期合併症が生じていることがわかってきました。長期間の定期的な経過観察が必要と考えています。

悪性胸膜中皮腫

アスベストとの因果関係が明らかな疾患です。胸腔の壁側胸膜・臓側胸膜を覆っている中皮細胞が腫瘍化して生じる疾患です。胸痛、呼吸困難で発症することが多く、また原因不明胸水の精査中に発見されることもあります。 当科では診断と手術を担当しています。 診断には局所麻酔下胸腔鏡検査が重要です。局所麻酔を行い、胸腔内に胸腔鏡を挿入して壁側胸膜・臓側胸膜を観察します。病変を確認した場合は生検を行い、十分量の腫瘍と胸膜組織を採取します。(肺がんと異なり、悪性胸膜中皮腫の胸水からは悪性細胞が検出されないことがほとんどです) 手術適応ありと判断された患者さんには、現在集学的治療を行っています。

  1. シスプラチン+ペメトレキセド(アリムタ)の化学療法2~3コースを内科入院で行います。
  2. 胸膜肺全摘術+リンパ節郭清
  3. 片側全胸郭照射

疾患そのものの予後が非常に悪く、手術適応のある患者さんは稀です。また胸膜肺全摘術は当院で行う手術の中でもっとも危険度の高い手術です。本当にこの治療が正しいのか、まだ議論されているのが現状です。上記の集学的治療の本邦の成績がもうすぐ明らかになりますので、その結果次第では、大幅に治療内容が変更される可能性もあります。